創業60年余・名古屋の老舗日本料理店『重きよ』にて、伝統を引き継ぎながらも美しく革新的な日本料理を、美濃焼の人間国宝・荒川豊藏先生の貴重な器で提供する時別な宴が開催されました。

名古屋市中区新栄に隠れ家のようにひっそりと店を構える日本料理の名店『重きよ』は、昭和38年の創業以来、四季折々の食材を活かした伝統的な会席料理、それを彩る器と繊細な盛り付け、そして日本の侘び寂びを体現した店内のしつらえで、お客さまをおもてなししています。

そんな日本料理の名店で開催されたのは、『人間国宝・荒川豊藏の器と日本料理を楽しむ宴』。
普段は博物館のガラス越しでしか見られない、美濃焼の人間国宝・荒川豊藏先生の器で料理をいただくという、とてつもなく贅沢なイベント!
開催されたのは7/4、7/5、7/11、7/12の4日間で、料理だけでお一人様45,000円という金額にもかかわらず、連日満席という大盛況ぶりでした。
陶芸界の巨匠の類まれなる器に盛られた料理はどれも美しく繊細で、サーブごとにお客さまからもため息が。
重きよご当主からの器と料理の説明に、みなさん真剣に聴き入っていました。
器は一点物も多く、参加者全員が違う器で提供されていたのも、宴をより盛り上げます。やはり焼物好きなお客さまが集っていたので、お互いの器を眺め合って感嘆されていました。
食べ終わっても「下げないでほしい」と言われることもしばしば。
(料理が載せられた器はすべて豊藏先生のものですが、ご当主のご意向でチラ見せになりますのでご理解ください。)

美しい料理とのノンアル・ペアリング
そして私は、この日のための特別な料理・世界観に合わせたノンアルコールのペアリングドリンクを担当させていただきました♡
これまでフランス料理やイタリア料理、スイーツなどとのペアリングドリンクを作らせていただいておりますが、実は日本料理とのペアリングは初めて。
いや~~~難しかった!!!!
日本料理は洋食に比べて味が繊細で、構成要素(素材や調味料の味や香り)が少なくシンプルです。素材そのものを前面に出すというか。お刺身とか分かりやすいですかね。
ペアリングドリンクを作る時は、料理の構成要素を分析して、その味や香りを芳醇にしたり、時には抑えたりするよう設計するのですが、構成要素が少ないということは、それだけヒントも少ないということ。
私が所属するミクソロジーティーペアリング協会では、紅茶や日本茶などお茶をベースにすることにこだわりをもっているのですが、難しいのはそのバランス。
ただのお茶になっちゃいけない。
ジュースになってもいけない。
あくまでお酒の代わりとして料理に合わせ、大人のお客さまにご満足いただけるものを作ることをモットーとしています。
今回は日本茶を使用することは決めていましたが、いろいろブレンドしすぎると風味が複雑になって料理が負けてしまうし、かと言ってただのお茶になってしまうとつまらないし、絶妙なバランスを見つけるのに苦労しました。
特に重きよのご当主は神戸で修行されていたこともあり、全体的に上品な薄味なので、とにかくドリンクの味と香りが強くなりすぎないように、複雑になりすぎないように気をつけました。
ペアリングで一番大切なのは、料理を引き立てること。
ドリンクが主張しすぎないように、常に気をつけてるよ。
料理の詳細が下りてきたのは開催3日前。それから怒涛の試作祭り!
慌てていくつものお茶やハーブを取り寄せたり。

とにかく、どうやったらその料理がもっともっと魅力的になるのか。どのようにお客さまに喜んでいただけるのか。すべてのベクトルはそこへ向いています。

試行錯誤の末、今回作ったのは①金木犀シャンパーニュ、②美濃紫香、③薔薇の雫の3品。

ひとつずつ紹介するよ!
金木犀シャンパーニュ
金木犀の香りで、特別なコースを華やかに彩ります。金木犀とフルーツの甘い香りと凍頂烏龍茶の爽やかさの中にしのばせた、玉露の旨味と甘味を感じて。
凍頂烏龍茶、玉露、キンモクセイ、レモングラス、ローズヒップ、レモンマートル、マンゴー、パイナップル、炭酸

※ドリンクと一緒に写ってる抹茶茶碗はすべて豊藏先生の作品で、コース最後にご当主がお茶をたててお菓子とともにお出ししていました。
【Best Pairing!】1品目突出 鮑の柔らか煮
フルーティーな香りとやさしい甘味を持つ凍頂烏龍茶と旨味たっぷりの玉露で、鮑の甘味・旨味がより芳醇になるように設計。
アクセントに添えられた柚子と、ほんのりとシトラス香のあるキャビアに着目し、レモン、キンモクセイといった柑橘系&甘い香りでまとめました。

美濃紫香
美濃焼の世界観に合わせて、豊かな旨味とキレのある渋味を併せ持つ美濃白川茶(新茶)をベースに、初夏の香り・青紫蘇でアクセントをつけました。
煎茶(美濃白川茶)、青紫蘇、カルダモン、マスカットビネガー、ローズヒップ

【Best Pairing!】5品目焼物 鮎の塩焼き
シンプルで淡白な鮎の塩焼きを最大限に味わっていただけるよう、ドリンクも美濃白川茶を前面に押し出してシンプルに仕上げました。ワインペアリングでは鮎はフルーティーな白を合わせることが多いので、マスカットビネガーでほんのりと果実味をプラスして。鮎に添えられた蓼酢とも同調しています。


薔薇の雫
紅茶キャンディとほうじ茶をベースに、ローズとブルーベリーの香りでミディアムボディの赤ワイン風に仕上げました。スパイスたちをバランス良く散りばめて。
紅茶(キャンディ)、ほうじ茶、ブルーベリー、ローズ、ハイビスカス、オールスパイス、黒コショウ、バニラ、プルーン、イチジク、パイナップル、黒酢

【Best Pairing!】8品目 飛騨牛フィレステーキ&フォアグラ&トリュフ
フィレ肉とフォアグラの脂を切りながらさっぱりと召し上がっていただくため、タンニンを程よく含む紅茶キャンディをベースに、香ばしさと甘味を含むほうじ茶をブレンドしました。黒トリュフと相性が良いブルーベリーをアクセントに。ローズをふんだんに入れることでブルーベリーの風味がさらにふくよかになります。
コース終盤の肉料理であるため、重めのフルーツと芳醇なスパイス香でフルーティーなミディアムボディを目指しました。


お客さまの声
お酒が飲めないお客さま、お酒を飲まないお客さまも、ドリンクを合わせることで料理をより楽しめると大好評でした!
お酒が飲めないので、普段はお茶やお水だけ。今回はアルコールを選ぶようにドリンクと料理を合わせられて楽しい。
しかもしっかりとペアリングされていておいしい。
良い香りでものすごくおいしいです!
次のドリンクもとても楽しみ♡
風味がひとつひとつ全部違って楽しいです♪
鮎にすごく合う!
感動した!!
所感
とにかく難しかった今回のペアリング。鮎の塩焼きとか…シンプルすぎて、どうしたらよいか分からず途方に暮れました。
これはもう日本酒か日本茶しか合わん…いや、それじゃ私が目指すノンアルペアリングじゃない!
絶対にできる気がしなくて、自分のスキルのなさに打ちひしがれました。
が、結果的には一番人気は鮎とペアリングした美濃紫香だったし、お客さまからも絶賛のお声をいただき、充実感・達成感はもちろん、自信さえもついて「この世界でウチ、やっていけるわッ!」と関西弁で思いました。
反省点は、もう少し全体的な世界観を意識すればよかったなということ。
コース料理に合わせるペアリングでは、どうしても一品一品の料理にばかりフォーカスしてしまう。
まさに木を見て森を見ず。
今回の真の主役は豊藏先生の器。料理でさえ器の引き立て役だったのです。
ならば、豊藏先生のことをもう少しお聞きして、例えばお好きだったお酒を模して作るとか、お好きだった食材を入れてみるとか、お好きだったお色に仕上げるとか、美濃焼の歴史を盛り込んでみるとか、そういった多角的なアプローチをしていたらもっと面白いドリンクが作れただろうなぁ。
次回はもっとバックグラウンドをリサーチして、世界観の完成度を高めよう!
またひとつ、大きく成長したね☆
失敗も反省も、成長の糧。恐れず前進していこう。
お声がけくださった重きよご当主、器をお貸しくださった豊藏先生のご子孫さま、お越しくださったお客さま、素晴らしい経験をありがとうございました。
